実績により国籍不問 - Canadican Governor of BOE
英国の中央銀行(Bank of England)の次期総裁に、カナダ人で現カナダ中央銀行総裁のマーク・カーニー氏が選出されました。 BOEの318年の歴史で、初の外国人総裁に就任する予定です。
カーニー氏は英政府の公募に応募しなかったのですが、英財務大臣の猛烈なスカウト攻勢をカーニー氏が受容れた形です。英財務相は『世界でもっともふさわしい人物(The most qualified person in the world)』と評しています。カナダのある新聞には「英政府がまるでストーカーのようにカーター氏をさらった」と書かれたそうです。
カーニー氏は2008年からカナダ中央銀行の総裁を務め、経済成長と金融緩和を両立させて金融危機を乗り切りました。カナダ経済はリーマン・ショック後も素早い対応により、G7で最も高い経済成長と最も低い債務比率を保っています(毎日新聞社『エコノミスト』12月11日号参照)。まさに、「実績により国籍不問」の採用です。 「ウインブルドン現象」と呼ばれ金融自由化で繁栄を謳歌した英国「シティ」ですが、過度な市場放任主義がLIBOR不正操作事件を招いた印象は拭えません。またLIBORスキャンダルへの関与疑惑で英国人の筆頭候補(現BOE副総裁)が選考対象から外れました。金融業界とその監督行政への信用は失墜し、その回復を図るためのシグナリング効果を狙った面もあるでしょうが、やはり実績を高く評価されてのヘッドハンティングでしょう。
アメリカやカナダは主にイギリスからの移民が作った国だし、英語を話すから似ていると思われるかもしれませんが、 「文化的には大きく違う」とお互いに思っているようです・・・。まあ、話す英語も私には全く違うように聞こえますが・・・。 イギリス人はとっつきにくいし、英国人社会は封建的で閉鎖的というイメージがあり、実際そう感じることも多いのですが、一方で積極的に国際化を進めている面もあります。ウインブルドンやシティに象徴される国際化と共通して、組織の閉鎖性に風穴をあけることを狙って、あえて毛色の違う人種や国籍の人を登用しようとするところもあるようです。 私事で恐縮ですが、私は昔、英国系証券会社の東京支店に勤務しており、その時の上司のアメリカ人に推薦状を書いてもらってアメリカのビジネススクールに留学しました。その当時の東京支店長はカナダ人で、後に他社に移籍してロンドン勤務になったと聞きました。 卒業後に就職した別の英国系銀行では、当時の駐日代表は英国人でしたが、英国本社からインド人の役員も来ていましたし、国際金融本部長はキプロス人でした。トレーディングルームの同僚は日本人の他にアメリカ人、インド人、モナコ人、オーストラリア人、香港(中国?)人、在日韓国人などでした。たまに喫煙室で雑談するくらいでしたが、他部署に英国人貴族もいました。 グローバルな事業展開をしている企業の社員が多国籍なのは当然でしょう。 国家の経済運営を担う中央銀行総裁が外国人ということも画期的ですが、民間企業での実務経験を有していることも重要なポイントです。欧米では民間で実務経験を積んだ人材が公的機関の要職に転身する例は珍しくありません。
アメリカでも、ゴールドマン・サックスのトップだったロバート・ルービン氏が財務長官を務め、クリントン政権下でその手腕を発揮しました。欧州中央銀行(European Central Bank)のマリオ・ドラギ総裁もゴールドマン・サックスの副会長を務めた経験があり、イタリアの公的部門民営化の実績が高く評価され「スーパーマリオ」の異名をとっていました。
官民の人材の往来は双方の運営に有益となるでしょう。日本にも『天下り』という一方通行がありますが、ねぇ・・・。
日本企業に外国人トップが就任して大胆な改革を行った例では、日産自動車のカルロス・ゴーン社長、ソニーのハワード・ストリンガー会長がよく知られています。オリンパスのマイケル・ウッドフォード社長は就任後まもなく解任されましたが・・・(これに関しては思うところがあるので改めて記事にしたいと考えています)。最近は多くの日本企業がグローバル人材の採用と育成に着手しているようです。 日本も政府高官や要職に、民間の実務経験者や外国人を積極的に起用する必要があるのではないでしょうか。まあ、日本人でも外国人でも、腕に覚えのあるスーパー・キャリアが日本で要職に就いたからといって、リーダーシップを発揮して大胆な改革を実行するのは至難の業で、彼らにとって遣り甲斐や名誉を伴う、魅力的なキャリアにならないことも問題ですが・・・。 今のところ日本で外国人も真に実力主義、実績により国籍不問で、最も国際化が進んでいるのは相撲界でしょう、かねぇ・・・。