• Hiromi Okada

東芝の不正会計に見る終身雇用制の寿命


責任の所在は曖昧なまま、社長も誰もクビにならない 東芝が不適切な会計処理を発表しました。報道によると、不適切な処理は金額ベースで受注時点から採算悪化が見込まれていたり、実現可能性の低いコスト削減計画が織り込まれたりしていたケースが目立ち、予算や業績目標を達成するプレッシャーの下で行われたそうです。 「原価や利益率の見積もりについて、現場の裁量に任される部分が大きかったので、適切に決算を作成する内部管理体制自体に問題があった可能性が高い」、と日経新聞は報じています。不適切な会計処理は2013年度に集中しているとのことですが、おそらくこれは氷山の一角で、実際には常態化していたと想像されます。 コスト見積もりが甘かったなんて言い訳は通用せず、どう考えても利益操作で、証券取引法に抵触するでしょう。 確かにインフラなど息の長い事業では長期にわたる会計処理をチェックするのが難しい面もあるでしょうが、それでもこれほど重大な粉飾スレスレの決算処理なら、本来なら社長や担当の取締役が何人か辞任してもおかしくないでしょうが・・・。責任の所在を明らかにせず、誰もクビにならないとしたら、株式会社としてのガバナンスの機能不全が露呈したことになります。 いまだに終身雇用と年功序列を信じている若手社員 ちょっと前に、私はあるソーシャル・イベントで東芝の若手社員とお話したことがあります。パリッとして知的な20代の好青年でしたが、驚いたことに、彼は会社で年々、お給料が上がって行き、定年まで勤め上げると信じていました。今どきの若い人が年功序列の給与体系と終身雇用を当然だと考えているなんて、日頃から労働市場の流動向上、人材のグローバル化を提唱している私には、大きなカルチャー・ショックでした。 アメリカではつい先日も、ツイッターのCEOが機関投資家に業績不振の責任を厳しく追及され、辞任に追い込まれました。株主からの圧力が強すぎると、株主による社長解任は珍しくないので、どうしても短期的な利益追求を何より優先するリスクもあります。一方で、株主の監視が緩いことに加え、不正が発覚しても責任を問われることなく、誰一人辞職せずに済んでしまうのは、果たして企業経営面ならず、社員のためにもいいことでしょうか・・・・?今回の不祥事で仮に社長や取締役が辞任という形をとったとしても、グループ企業が受け皿となるのでしょうか・・・。 不適切な会計処理は終身雇用制とリンクしているのかも知れません。経済成長と共に会社がどんどん大きくなって行った高度成長期には、若くして入社した人が社内で経験を積み、勤続年数に応じて昇給するというモデルが機能していました。しかしこのご時世で、全社員を定年まで雇用し続けるほど成長する企業がどれほどあるでしょうか? 液晶テレビで一斉を風靡したシャープ、ウォークマンやバイオ、プレステ等、数々の画期的な製品を世に送り出して来たソニーでさえ、苦境に立たされている時代です。誰でも知っている大きな会社も幾度となく業態変更やリストラを迫られ、業界再編を経ているのに、重工長大な会社に勤めていると、終身雇用や年功序列の賃金体制が今後も続くと刷り込まれているのでしょうか・・・。 会社は未来永劫、存続するのだから「現場の裁量」で鉛筆を舐めながら甘ちゃんなコスト見積もりをしても、他の事業が利益の穴埋めをしてくれるだろうし、社員は定期昇給で定年まで勤め上げられ、やがては帳尻が合うだろうと・・・。仮に現場や担当者が不正と認識していたとしても、それを告発すれば騒動になるだけでサラリーマンには一向にメリットがないですし、ねぇ・・・。万が一、引責辞任でもさせられたら、労働市場の流動性が乏しいと転職先もなかなか・・・ですから、ねぇ・・・。 変化を恐れることが最大のリスク 東芝の場合は、東日本大震災以降、国内外で原子力発電所の新設計画が進まない焦りから、新分野開拓を急いだことが結果的に裏目に出たそうです。つまり、「今まで上手く行ったから、今度も上手く行くだろう」という、以前の新分野開拓での成功体験がアダになったのでしょう。

「技術評価の低かった東芝が競合より安値で落札し、当初から無理があった」。業界関係者は東電のスマートメーター向け通信システム入札の状況をこう明かす。(中略)そもそも東芝は競合他社に比べてシステム開発で出遅れた。グループ企業で受注した特許庁の基幹システム刷新は12年に開発中止に追い込まれている。スマートメーターもシステムが技術の柱だ。東芝は12日「受注時から損失の可能性が認識されていた」と事業の見通しの甘さを認めた。(中略)144億円の利益減額の必要が生じた高速道路の自動料金収受システム(ETC)もこうした新規案件の一つだ。慣れない分野で背伸びした結果、採算管理が甘くなり、不適切な会計処理を招いたとみられる。出所:日本経済新聞『東芝の不適切会計、新分野開拓で焦り 損失覚悟で受注』2015/6/14

東芝に限らずどんな企業も、これまで事業が拡大して来たし、年功序列の賃金体系と終身雇用を維持できたからこれからも続くだろう、という考えは危険です。どの会社もどこの社員も、いつ何時、リストラや再編、倒産や失職に見舞われるか分からず、終身雇用制は寿命を迎えています。 ですから予測は必ずしも当たらないとしても、それらの可能性を踏まえ、変化を予知しながら行動することが大切ではないでしょうか。変化の激しい世の中では、「これまでずっとそうだったから、今後もきっとそうだろう」という考えがも最もリスクが高いのは、社員だけでなく経営者も同じです。これまでの成長が今後も続くことを前提にし、変化を恐れることが最大のリスクだと私は思います。 ©株式会社ライフワーク・アドバンス・代表 岡田ひろみ

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